2006年3月30日 (木)

Magazine287:現代思想4月号

 青土社、1238円と税金。

 例年この季節に、この雑誌は教育が特集となる。今回は、教育基本法改訂反対の旗を振っている大内と心のノートの批判を展開している三宅の対談。他には、どちらかと言えばニューレフトに区分された人を多めに配置した教育現場のルポ的文章が並ぶ。それぞれの文章は、今日の教育改革の政治的問題性、学校現場への歪んだその表れを表象している。

 個人的関心からすると、興味深いのは、森田伸子の佐藤学批判の論文だ。PISAを中心的素材に、それへの評価を通じて佐藤批判を記している。私がなるほどと思ったのは一点。PISAのリテラシー概念の意味の読み込み方についてである。

 他の主張の中心は、現代のリテラシーは多様だから、佐藤のように勉強と学びに二項区分するのはダメだよ、という主張には意義を多くは感じない。暗記が全く必要と言うことはないという程度の話しで、リテラシーの多様性を語るのであれば、教育学にとっても実践にとってもさしたる意味はない。森田の見地は、現状の多様さを示しはするが、だから教育をどう組み立てるかというフロントにいてそのフロントを変えるという視点に立ったときには、後ろ向きに見えてしまった。それは結局、勉強派となって、リテラシー概念に含まれるはずの一番良いところを切り捨てていく立場へと傾くように思われたからだ。でもまあ、よむならこの論文がいいでしょう。

 特集と関係ないものでは、立岩真也のお話がいいでしょう。(2006.03.30)

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Magazine286:歴史地理教育3月増刊号

 歴史教育者協議会編、905円と税金。

 学びがいのある授業プランづくり、これが特集。石井論文は、子どもたちの現在から教育課程をつくること、並びに授業時間数を意識して議論することを強調。勝野論文は、イギリスにおけるHCPの例を挙げながら、論争的なテーマをどう取りあげるのか、教え込み批判という観点から展開。以後、それぞれの方のプランと授業実践が並ぶ。

 全体として手堅い実践であるように思われた。プランをどう説明するかは依然として課題だと思う。標準的内容構成との比較でさらに示さないとその力点がわかりづらい。また、その力点がなぜ選択されたのかを力量のある方にはもう少し書いてあるとよいと思われた。

 また、安井実践、加藤実践の手法が多く採用されていることに気づく。それは、両者が話し合いを重視した実践を開拓してきたことと関連があるだろう。

 他方、小学校の実践を勝野論文にある視点で見るとどうなるだろうと思った。調査から推論と考察をどう組織するのかは小学校にとって、特有の課題がある気がした。調査によって事実を掴むとそこから結論へ向けて一直線に進む傾向をどうしても持ってしまう。それは勝野論文風に言えば、合意ではなく意見交換をということをどう保障するのかという問題となろうか。

(2006.03.27)

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Magazine285:問題な日本語

 北原保雄編、大修館書店、800円と税金。

 続弾も出ている。続弾とは、つまり続編も昨年末に刊行されたという意味らしい。

 「こちら〜になります」「っていうか」「耳障りのよい音楽」という表現のおかしさを、どこがおかしいのか、その理由を事例付きで解説したコンパクト本。肩は凝りません。ナショナリズムを煽る日本語本というわけでもありません。

 「こちら和風セットになります」のおかしさは、伝えたいことと聞きたいことが食い違っておかしいのだと説明される。「なる」には、もの自体が変化する場合と、予想と違って必然的にこうなるという場合があるとその前提を説明する。ついで、店側は既定の「和風セット」のつもりで話し、客は注文通りのものが出てくることを期待しているのに「和風セットになってしまった」と言われると、注文したものがこなかったのかと思ってしまう。それで変だというわけだ。こんな説明が延々と続く。私が間違って使っていた事例もいくつかあった。例えば、「違和感を感じる」、「とんでもありません」など、間違って使っていたことがあった。正確に言うと間違っている可能性を知らずに使用していた。

 『続弾』は、なぜか40円値上がりして840円と税金。選択された言葉は、「びみょう」「ご住所書いてもらっていいですか」など、より若者言葉と言われるものが選ばれている気がする。気分転換本として使える。(2006.03.24)

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Magazine284:10代の性行動と日本社会

 木原雅子、ミネルヴァ書房、1800円と税金。

 本書は、中学生、高校生、大学生の性行動を大量アンケート調査を基本にそこから判断される10代の性を素描した本である。厚生労働省や文部科学省の研究グループのメンバーであるために、その調査対象数が半端な数ではない。総数で15万件のデータを基礎としている。この大量データは、利用価値が高い。

 性体験率が高校二年生の段階で各県とも20〜30%(2001年)。性情報の蔓延に比して、性感染症や中絶に関する知識が欠けていること。高校生の性行為を認めるとする高校生は80%あまりに達するが、それを認めるとする親と教師は数%〜十数%というギャップがあって、性教育が極めて遅れていると指摘する。

 こうしたデータを見ていくと、保守派による性教育否定の言論の非現実的、非教育的なことがハッキリしてくる。これを批判するときのデータとして使える。

 ただし、この木原という人は、誠実にデータを集めてそこから言えることを記そうとしているのだろうが、各所に「驚いたことに」とか「怖さがあります」という表現に出くわし、性行為否定論に基本的に立っている。そうした価値判断を外して読むといいデータ集となっている。

(2006.03.21)

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Magazine283:生活指導4月号

 全生研編、明治図書、743円と税金。

 4月号から構成がだいぶ変わった。学級担任の仕事を念頭に、その仕事をどう展開するか、実践したかを短く、行ったことがわかるように書いている。今月号は、常任委員がずらっと執筆している。それだけに書き慣れた文章だし、どこがポイントなのかが比較的明晰だ。従来以上に読みやすい。

 学級担任の仕事を念頭にと書いたが、他の雑誌にあまり見られないのが学年会が取りあげられていることだ。今後、教頭や校長まで登場するとさらにいいかもしれないけど、管理職の会員はほとんどいないだろうから無理かも。

 第二特集は、授業に係わる実践記録。おもに、4月5月の授業づくりの力点が書かれている。授業における仕組み作りがその中心だ。実践的には、この観点は大切だ。息切れせずに無事春を迎えることを期待したい。また、授業も仕組み作りとは異なる観点があるのだが、さてそれは中野さんの取り組みなんかにはそれが見えるのだが、どうなるでしょう。なお、中野譲さんが福島生研になっていたけど、とんでもない誤植。彼は九州だ。頑張れ編集部。

(2006.03.17)

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Magazine282:テレビの罠

 香山リカ、筑摩書房、680円と税金。

 香山は本来精神科医だが、この所、社会心理もしくは社会評論家という感じ。

 本書は、昨年の総選挙で予想以上に自民党がなぜ勝ってしまったのか、その社会動向について大嶽の議論を柱において論評した本である。次から次へとよく出します。偉い。

 さて、いろんなことに触れているのだけれど、自民党の戦略は、テレビを真面目に見なくなっている人たちの増大の中で、クノイチとか刺客といったワイドショウ的な仕掛けが成功したのだということが一つ。そこそこの「セレブ」なるものを各地方に派遣して、その勝ち組にちょっと近づかせることで、本当は「セレブ」とはほど遠い存在の多数派を、本の少しの間「勝ち組」の側にあなたもいますよと言う幻覚を与えることに成功したのだという。そういう分析をしている。そういう人も中にはいただろうと思う。

 しかし、私はもう少し社会構造的な問題があるんじゃないかなと思う。根拠を当面捜せないのでこれ以上論及しないけれど。それでも、一つの要因としてはあり得るような気もする。

(2006.03.14)

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Magazine281:<心>はからだの外にある

 河野哲也、日本放送出版協会、1020円と税金。

 心理主義批判の本だ。自分の心が本質的に自分の内側にあると信じている人は読んでみましょう。あるいは、自分の性格を変えたいなどと思ったり、自分の性格をトレーニングによってバージョンアップして「よい人間」になりたいなどと思っている人は読んでみましょう。

 本書は、ギブソンの認知心理学をまずは導きの糸にしている。自分の外にあるものが私たちに提供するものーそれをアフォーダンスと言うが、私とは何かというのはそれとの関係なのだという話をしている。

 その次には、「われ思う故にわれあり」というデカルトのとらえ方を批判し、こうした動向が心理主義の系譜となっていったことを示しつつ、その議論の間違いを論述していく。この辺は徹底している文章だ。

 心理主義批判の本としてはいい線いっていることが多いと思う。ただ問題は、確かに、私たちの脳を解剖しても心なんて出てこないが、それは外界からの情報を区別しているだけだが、その区別における傾向や志向の一時的な滞留という問題はある。つまり、環境との相対的自立性ということはあるのであって、この点への目配りは十分とは言えないのではないかと読んだ。

 (2006.03.11)

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Magazine280:あたたかな気持ちのあるところ

 都筑学・奥原しんこ、PHPエディターズ・グループ、1500円と税金。

 都筑さんがじゃなくて、博おじさんが中学3年生の健太君と手紙をやり取りする形で、人との関係、希望などを語るスタイルとなっています。だから、つながりとは、希望とはという問いに正面から生硬に応えるというのではなくて、日常の暮らし方、振る舞い方、ものの見方を日常的な言葉で語るように綴られています。だから、高校生ぐらいから年配の人まで読み進めることができます。また、奥原さんの絵が、また、なかなか良い感じです。

 ブログに触れたように、荘子の有名な言葉に、
   井の中の蛙大海を知らず
というのがあります。

しかし、これには続きがあるということが本の中にあります。それは、

   されど空の青さを知る

 本来どう読むべきなのかはわかりませんが、これがあると、井の中の蛙はダメなだけの存在ではないことが見えてきます。今は知っていることは少なくとも、その今のままでも見えていることが確かにあります。その見えているものはとても大切なものかも知れないわけです。空の青さのその続きは、大海よりもはてしなく続く広がりを持った宇宙です。そう読んでもいいように思ったわけです。

 このような話題が静に語られていきます。また、上の事例を取りあげたのは、そこにある希望が生まれる仕組み、それこそが大切ではないかという都筑さんの基本的な主張だろうと思ったからです。つまり、蛙の希望や可能性ということです。

 あえて批判的なことを言えば、健太と博というネーミングは今ひとつ。もっと、中性的な名前がよかった。また、ベルギーでの生活報告を読んでいた側からすると、ビールの飲み過ぎといえなくもない。何度、ビールを飲んだらうまいという話が出てくるか、閑な方は数えてみるとよいと思います。(2006.03.08) 

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Magazine279:はじめての<超ひも理論> 

 川合光、講談社、800円と税金。

 先週の週間ブックレヴューで取りあげられていたので、読んでみることに。「論争する宇宙」よりは、宇宙の起源にその力点のある本。先の本にも、宇宙の始まりは、1cmあまりの所から始まったなどと書いてあったのだが、その1cmあまりの所をプランクといい、そのところにひも状のものがあるんだという。これが、宇宙の種なんだそうな。基本的に理解できてないけれどわかったいや知ったことが一つある。

 それは、時間は不規則に流れるというはなし。主観的な時間の流れの話しとしてではない。であったときに私になぜとは聞かないで欲しいけれども、これはホントに知らなかった。とりあえずふーんということにしておく。

 理解できてない本を読むこともたまには良いものだともった。

(2006.03.04)

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Magazine278:宝塚というユートピア 

 川崎賢子、岩波書店、740円と税金。

 宝塚の創設から現代に至るまでの歴史が語られている。宝塚にはいくつもの伝統、神話があり、それを遠くからながめるものにも固定的イメージがある。それらのイメージがいかに形成されてきたのか、本書によって私は初めて知ったことがいくつもあった。五つの組と専科があることや小林一三が創設したくらいは知っていたのだが、他に知っていることといえば、本当に有名なトップスターの名前ぐらい。

 中日劇場で毎年行われる公演を何度か見たくらいの体験しかないわたし。その時、公演が終わると、出口に人垣ができてすごいなと思っていた程度。この人垣にも配置があるなどというのは知らなかった。

 ともかく、16/17人(創設の時の人数が一人場所によって違うので)で始まった時にも、当時の「女の財布」をあてにできる社会の状況や当時の女・子どもイメージに乗りつつ、それを変えていったことなどが記されている本である。宝塚の現在にさして詳しくなるわけではないが、草創期から戦争中から占領期あたりについては結構詳しくなった。

 宝塚の劇を見た限りで、これが感動的という風に思ったことはない。ストリーとしての面白さは今ひとつなのだが、にぎやかな煌めきがそこにあるとは思う。また、劇中で抽象的な言葉が飛び交うのだが、その言葉を飛び交わさせる側はそこに何を込め、これを見る側はその何を受けとっているのだろうと想像する瞬間は悪くない。ただやはり、男の観客は少数派なので、開演前と公演終了後のしばしの間は身の置き所がない感じがどうしてもする。

(2006.03.02)


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