2008年5月1日 (木)

Magazine529:ユダヤとイスラエルのあいだ 

 早尾貴紀、青土社、2600円と税金。

 私の中での今月のベストスリーに入る。国民を、法的にのみ存在するものとして明快だ。したがって、いくらでも線引きし直され続けてきたものと位置づけている。

 知らなかったこと・意識せずに通過させていたことをたくさん教えられた。ブーバーを私は「我と汝」ぐらいしか知らなかったので、イスラエル建国との関係で政治的シオニズムに反対していたことを本書で初めて知った。キブーツについて、アラブ人とイスラエル移民の低賃金労働への依存の問題についても初めて知った。あるいはまた、アーレントのシオニズムとの関連についても本書で知ったことの一つであった。横道にそれるが、アーレントについてその労働の捉え方の教養主義的なつかみ方に疑義を持っていたが、それ以上に早尾によればシオニストとして把握することができることも知った。

 さらに、バトラーについて、『ジェンダー・トラブル』の業績に比してこの問題への不徹底な見地にあるという批判についても考えさせられる論述だ。(2008.04.29)


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Magazine528:21世紀の唯物論 

 関西唯物論研究会編、文理閣、2800円と税金。

 21世紀かどうかはわからないけれど、最近の動向がわかるかもしれないとちょっと期待して目次を眺めて、二つ三つ読むことにした。その一つは、批判的存在論を紹介した佐藤春吉論文。構築主義などを主観主義として排しているのだけれど、その批判点が明示されていないのが残念。他方、批判的存在論の特質を示そうとしているわけだが、その議論の有効性が今ひとつ伝わってこない。社会もしくは人間を捉えるにあたって、複合的多元的因果連関において捉え、決定論的にではなくて開放系条件付けとして規定されていると把握しようとしているらしいことは理解される。だが、そのメリットが現象の分析にいかに作動するのかは論文からは不明なように思われる。

 もう一つは、グラムシの実践の哲学に関する上田論文。全体の問題意識を共有しない私にとって、それでも参考になる指摘があった。それは、フォイエルバッハに関する第6テーゼ、これに注目していくと、やっぱり今考えていることは結構いいかもしれないと再び思ったこと。

(2008.04.25)


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Magazine527:リア王 

 シェイクスピア、白水社、830円と税金。

 4大悲劇の一つ。リア王が3人の娘に愛してると言わせてから国を3分割して権限をそれぞれ移譲しようとした時、うまいこと言った2人に対してコーディーリアだけが言わなかった事に怒り、追放する。2人に譲った国で隠居生活を始めるが、かつての王のように振る舞うために2人に疎まれて王が追放される。狂気の放浪の中で、かつての家臣や末娘と再開し、王を追放した2人などを追い詰めていくが、コーディーリアは殺害され王も絶命する。

 悲劇と言うだけあって確かに結末は悲劇の要素を十分に備えている。問題は、この作品をどう読むかだ。リア王が2人の娘に疎まれるのは至極もっともに見える。そのもっともさをどこで読むかが作品の主題を決めるんだろうと思う。(2008.04.23)


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Magazine526:生活指導5月号 

 全生研編、明治図書、762円と税金。

 今号は、「子どもとつくる楽しい学級・学年」が第一特集で、第二が「どうする、保護者との関係」。それぞれ具体的に基本的なことを記しているので、何かを始める前に読んでおくといいという感じ。

 特集じゃないけど、本田のいじめの取り組みが今の私の関心からするとおもしろい。いじめの訴えに、まず、書き綴らせる先行実践に対してリーダーに聞きとらせ続ける。

 次に、クラスで今までにやられていやだったことを挙げさせる。いっぱいあがった後で、これらすべてを止めましょうと言ってお終いにする。

 別の時に、嫌なことをいわれてどんな行動をとったかを推測させ、次にそれらを「抵抗の方法」と呼び、どの抵抗の方法を選ぶか挙手させる。一週間後、自分の選んだ抵抗の方法を使ってその後の一週間の物語を書くという課題を出す。書き上がった作品の交流を行っていく。できあがった作品にある抵抗の方法の評価を意見交換していく、そういう実践となっている。

 どこが面白いかわかってもらえたでしょうか。

 物語にあります。(2008.04.19)


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Magazine525:創始改名 

 水野直樹、岩波書店、780円と税金。

 1940年年に実施された創始改名。これに関する麻生等の近年の誤った政治的発言に対して、創始改名という政策の前史、創始改名を実施する過程での強制の実態、創始改名を朝鮮人がどう受け止め抵抗したか、創始改名による内鮮一体化が強制的同化と同時に差異化であった事実、創始改名を行った個別の人の事情と記録、創始改名の残したもの、という構成となっている。

 出だしに朝鮮の本貫と姓と名の仕組みの説明があって、宗族を天皇の赤子に変えることが創氏の本質であって、単に姓名をつくったとか、日本風の姓にしたということではないことがよくわかる。

 とりわけ興味深かったのは、強制ではないといいながら強制となっていたこと、氏や名前を日本風に同化しながら、名前の付け方、戸籍への記載の仕方、日常的差別などによって差異化が行われていた事実が積み上げられていく。

 日本近現代史のシリーズよりずっと高水準。(2008.04.15)


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Magazine524:現代思想4月号 

 青土社、1238円と税金。要するに1300円。

 特集が学校改革。藤田英典と大内裕和、佐々木賢と大内の対談がメインで、その他はこの雑誌のいつものメンバーがいつもと同じトーンで書いている。毎年、4月頃の特集が教育というのも変わらない。ちょっと編集がマンネリ化している気がする。(08.04.11)


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Magazine523:間違いの喜劇 

 ウイリアム・シェイクスピア、白水社、690円と税金。

 双子の兄弟とその双子の召使いが難破して別れ別れとなって、やがて成長して出会う。だが、双子故に彼らの周囲を巻き込みながら間違えて混乱する。それでも最後には、双子の親とも再会するという話。

 双子故に起こる騒動についての物語は、このお話よりもずっと前にも存在したらしいことなどが、あとがきに記してある。こういうあとがきを読んで思うことの一つに、作品を優れているとか、きわめて面白いだとか書いてあることが多いが、その面白さそのものを解明した解説は意外と少ないと言うことだ。由来、来歴のような周辺的な出来事に精力を傾けるのは間違っている気がする。(2008.04.08)


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Magazine522:高校生活指導176号

 高生研、青木書店、1200円と税金。

 特集1が保護者とつながる。特集2が部活・サークルの世界。

 高校というのは、親とつながることをしてこなかった。それに対して、各地の私教連はその取り組みを行ってきた。学校の存亡に関わっていたことが大きいと思うが、その後の社会状況は別の理由を浮上させている。冒頭は、学校協議会というどちらかというとやはり制度的な問題が前面にでているが、後半は教室実践的な保護者との関わりが実践記録として登場している。おそらく、二つの側面がないと保護者とのつながりというのもうまくいかないのだろうと思う。

 特集2では、野球部の指導の実践記録がわかり易い柱で構成されている。一つは、休養と組み合わせた計画的練習。連日の猛特訓ではなく、定期的な休養を入れている。二つは、全体の練習と同時にいつも個人別のメニュー、自主的・自律的判断を生徒に求めている。自分に必要なメニューをウオームアップの時点から入れ、その内容も自分で考えさせながら行っている。三つには、記録とミーティングだ。

 絹村論文は、教員評価について、教員個人を評価することの不可能性を指摘しながら、考えさせる文章を寄せている。一つは、教員評価が学校に否応なく入ってくる中で、逆手にとる実践ではなく、教育実践そのものを評価し合うことが重要じゃないかという。そして、二つには、そういう同僚性をつくることが実践課題だといっている。対抗軸に関わる話なので、個別の学校状況によっても異なる点はあるかもしれないが、いろんな提起が今後も期待される。実践評価をすることに関わっても、学校で行うこととサークルで行うこととは違うだろうから、さらなる検討が必要なように思われた。(2008.04.04)


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Magazine521:数学でつまずくのはなぜか 

 小島寛之、講談社、720円と税金。

 代数、幾何、解析学、自然数、数と無限の五つの章からなり、それぞれで学び手がつまずく理由を数学の側の抱える問題というまなざしから論じた本。

 基本的に読みやすい文章となっているが、この本に数学教育者が学ぶべきは、数学の構造の側を検討して、そこに孕まれているわかりにくさを具体事例で示している点にある。例えば、小学校で習う帯分数では3と二分の一は3と二分の一を足すのに、中学校で習う文字式の場合、3xは3かけるxとなっていてかけ算にいつのまに変わっているのでつまずくのだ等というような事例で示されていく。

 基本的にはガードナーの理論枠を観点にしている。その妥当性については議論があるかもしれないが、教材研究がきわめて矮小化されてきている現在、小島のような教材研究視点は参考にしたほうがいいと思う。

 ということで一読に値する本だと思う。(2008.04.01)


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