集中と聞くことの指導(2004年4月執筆)

                        

1 困ったこと

 始まりは、新任教師からの「子どもに話を聞いてもらえない」「集中してもらえない」「整列させることが

できない」というものでした。ついつい大きな声で叱ることになってしまう。しかし、それは声がつぶれただ

けで、威厳もない中では効果的とは言えないという発信でした。そこで、いろいろ試してはいるけど、どう指

導したらいいのかということでした。

 

2 誰が集中できないか

 教師の話を集中して聞いてもらえてないこと、指示がなかなか通っていかない状態にあることは教師ならす

ぐにわかります。だからつい「自分のクラスは騒がしい」「力量がないなあ」と思いこみがちです。しかし、

ここで大事なことは、一般的に「だめだ」というのではなく、クラスの分析を始めることです。

 1)誰が、どんなときに集中できないか?

 2)誰は集中できているか?

 3)教師に協力して静かにするようにいう子はいないか?

 クラス全体を何となくうるさいクラスとつかんでいると、どうしていいのか、その原因は何かが見えてきま

せん。当面は、2)3)の子どもたちの協力も得ながら、1)の子どもたちに取り組むことになります。もち

ろん、本当は2)3)の子どもたちも課題を抱えていると押さえておく必要があります。これは後述します。

 さて、1)誰が、どんなときに集中できないかという視点は、子どもによって原因や理由は違うと推測され

るからです。これを無視して、とにかく静かにさせようとすると、一時的な効果ですから、法則化運動のよう

になってしまい、やがて破綻し、後の人生に後遺症を与えることになってしまいます。教師の側に原因がある

こともあるわけですから、誰がどんなときに集中できないかつかむ必要があります。

 Kさんのクラスの場合、特に集中できない子は3人いるそうです。一人は、自分がコントロールできない

タイプで、後ろを向いたり、大きな声を出したりして、他の子にも被害をあたえている」そうです。でも、

「言うとそのときには聞くのと、できた時にほめるとのってくる。」という事実から「うまく言えばできる子

だと思います。」と分析しています。

 おそらく、コントロールできない頻度が高く、いつも注意してないといけないのだろうと推測されます。自

分をコントロールできないのはなぜだろうと考えると、いろんな原因が想定されます。例えば、腕力もあって

やりたい放題で育ってきたとか、単に甘やかされてきたとか、逆に保護者の暴力のもとでそのストレスを学級

で同じように繰り返しているとか、いわゆるADHDなどの障碍の現れであるかもしれません。これらは、子

どもと親や周囲の友達関係も見てみないと判断できません。それに応じて対応も異なってきます。

 もう1人は、「自分の世界に入っていて、話を聞いてないです。だから、説明している途中や後に前にでて

きて、同じことを聞きます。周りがみえてないです。」この子はおそらく、自分の関心のある世界に出会うと、

そこにすぐ夢中になって一人でその活動を続けたり、関心のある話題についてずっと誰かと話をしてしまうの

だろうと思われます。集中力は本当はあるのだけれども、学校で他の子どもと息を合わせていくことは苦手と

いう子どもだろうと思います。教師以外にも、「今はこっちを向いて」と呼びかける人を周りに配置すること

必要そうです。関心を持てることや集中力のあることは他方で評価していくことが必要だろうと思います。

そういう力は大切だと思われます。

 三人目は、「椅子の上に座ったり落ち着きがない」子だそうです。「初めは通じなかったのですが、最近は

目が合うといけねっというように感じてくれています。」文面からは、ひょうきんで活動的な子なのだろうと

思われます。「いけねっと」と思うようになってくれているようですから、そう思うようになってくれている

ことを前進として評価していくとなんとかなりそうな気もしてきます。

 いずれにしろ、もっと情報を集める必要があります。幼稚園時代はどうだったのかを他の子どもに聞いたり、

必要であれば親や去年の担任に聞いたりして情報を集める必要があります。(その情報が全部正しいというわ

けではないことも心の隅には置いておきましょう。)

 しかし、そうした情報を元に、当面の対策だけでなく、長期的にどうしていこうということを考える必要が

あります。人はゆっくり変わります。だから、急いでも、焦るだけで効果は上がりません。教師も子どももス

トレスをためるだけとなります。それで、一歩前進を共に喜びましょうと言ってきたわけです。この辺の長期

的展望を考える上では、『学級崩壊かわる教師かえる教室』フォーラムAの低学年・中学年の実践記録を見て

もらえると参考になると思います。ちなみに研究室にあります。

 

3 集中できている子

 他方で、クラスには、集中できている子もいます。Kさんは、「 リーダーっぽい子が私のかわりに大きな声

を出して「静かにするんだよー」と叫びはじめました」と書いています。クラスには、必ずそんな子もいます。

 教師や親に対してよい子であることを脅迫的に示さないではいられない子である場合もありますので、注意

が必要です。それで、「そうだとすると、後で問題を爆発させる可能性があると覚悟しておきましょう」と書

いたわけです。

 他方で、そのとき「子ども同士だとちょっとけんかっぽくなるときがあるのと自分もできてないのに、人に

注意する子が増え始めたことが困っています。善意でやってる子もいるので注意しにくい」と書いていました。

「注意の仕方」をめぐってトラブルも生まれているようです。しかし、これは指導の絶好のチャンスです。

 どんな注意の仕方であれば、注意する方や注意される方の子どもにとってもよりよいかという話し合いをす

るわけです。注意され方によっては、よりいっそう腹が立って、素直になれないこともあるのは大人も子ども

も一緒です。それで、どのように注意したらけんかにならないかを、注意する側にもされる側にも言ってもら

って合意をとることがまずこの点では必要だろうと発言したわけです。

 どんな言い方ならいいかを話し合うわけですが、そうしたからといってすぐに完璧にできるようになるわけ

ではありません。しかし、今度は、前に話し合った地点から出発することができます。単に前の合意を忘れた

のなら思い出してもらえばいいし、もっと良い合意が必要だというなら変えればいいからです。

 

4 当面の具体策

 これまでの発言で列挙した当面すぐできることを整理しておきます。

 1)いつも完璧に静かになったら成功とは考えない。誰かの一歩前進を評価する。

 2)禁止の言葉ではなく、誘いの言葉に変える。

 3)禁止事項については、その理由を短く言い添える。

 4)同じ言い方を繰り返さない。

 5)集中の仕方の合図を決め、遊び的要素を入れながらその練習をする。

 6)子ども同士のトラブルが発生した場合、教師が解決しちゃうのではなく、本当はどうするとよかったの

かを、子どもに話し合ってもらう機会をつくる。

    例えば、帰りの会などで『みんなに相談』という時間をとります。叱る前に、出来事を言葉で説明してもら

いながら、別の解決の仕方がなかったかを考えて、提案してもらうわけです。今度は、その提案を『思い出し

てね』と、同じようなトラブルの時にいいます。

 7)集中が切れる理由の一つに飽きるということがあるので、活動を多様化する。学ぶときにいつもずっと

机にへばりついているのではなく、適当に子どもたちが体を動かすようにする。教室から運動場へ、そして教

室へ、教室内も前に出てきたり机に戻ったり。列で指名する時に、その列に全員立ってもらい、発言が終わっ

たら座るという風にして、体を意識的に動かすようにするわけです。

 

5 参考文献

 子どものつかみ方や長期的展望を描くには以下の文献がいいと思います。手法も参考になるだろうと思いま

す。

 「教師を拒否する子、友達と遊べない子」高文研

 

 具体的な手法・技術を書いたものに以下の文献があります。

 家本編「子どもの心にとどく指導の技法」高文研

 今泉博編著「生活指導力」旬報社1400円

 今泉・佐藤編著「教師力」旬報社1400円

 今泉博「集中が生まれる授業」 学陽書房1800円

 家本芳郎『イラストでみる楽しい指導入門』高文研1400円

 家本編著で『小学校学級担任アイデアブック』民衆社1・2年生版

 

 体育関連では、以下を紹介しました。

「子ども体育未来 : 体育の学びと子どもの育ち」東京創文企画

「たのしい体育の実践」学校体育研究同志会大阪支部編 -- あいわ出版

 

 具体的に困った状況を教えて頂くと、また違った情報なり、文献なり、人を紹介することができるかもしれ

ません。

 

6 実践のイメージを広げるためにー篠崎さんの場合

 神奈川の教師の篠崎さんは、教師の話を聞けないのは、その子が話を聞いてもらった経験が少ないからでは

ないか、と言ってます。だから、子どもの話を聞くことが重要だと言って、ダッコして話を聞くということを

行っているようです。

 また、朝自習の場合、10分一本勝負と名付けて一つの課題だけやることに最初はします。次に、10分間

静かにしていれば何をしてもよいことに変えます。次に朝自習の課題を10分間静かにやる。という風に変え

て行ってます。

 早く集中すると早く外で遊べたり、早く給食が食べられるというメリットと連動して、集中の意味を教えて

います。

 こうした取り組みを続けながらも、篠崎さんの面白いところは、学校では暴れてしまう被虐待児をなでなが

ら「どうしたら暴力ふるわなくて済むか考えよう」と子どもと泣く一方で、「はい、息止めて。」といって苦

しい顔をし始めたら「国語の教科書出して席について」といって席に着かせたり、動きたい要求を満たすため

に次から次へと遊びを休むことなく続けたりしていることです。ちなみに、これが全員に指導が通った最初だ

と書いています。

 篠崎さんの実践の原則はだから以下のようになりそうです。

 1)話を聞くと得だということを具体的に示す。

 2)聞けない事情を子どもごとにつかむ。

 3)達成できそうな目標を子どもと設定し、変えていく。

 4)子どもの我慢できない動きを要求として捉え、楽しい活動に転換・誘う。

 ここにも、4のところで述べた原則がいくつか生きているようです。

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